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駐在員のジレンマ ~相手の価値観と自分の価値観~

更新日:2023年11月20日

高林綾子


2010年6月〜2012年4月 シンガポール COACH A (Singapore) Ltd.

2012年5月〜2016年6月 タイ COACH (Thailand) Co., Ltd.


独身でバンコクに駐在していた私にとって、朝一番に会話をするのもその日最後に顔を見るのも運転手さんでした。毎朝6時に出るにも関わらず、必ず朝洗車をしてピカピカの状態で私を迎えてくれ、遅刻・欠勤も一度もない素晴らしい自慢の運転手さんです。


結局私の帰任迄の4年間、一緒に働いてくれましたが、その間3回、辞めたいと言われたことがあります。理由はいつも同じでした。「綾子さんが怖い。一緒に働きたくない。」と。メンバーのタイ人社員に理由を聞いてもらうと、大体いつも同じでした。きつい言い方をされた(声のトーンがきつい)。車内で大きい声で話をしているのが嫌だ。黙ってPCで仕事をしているのも怒っているように見える。いつも英語で話かける(タイ語を使わない)。私の空気感が怖いとのこと。


私としては、新規で立ち上げた拠点をいち早く黒字化しビジネスを軌道に乗せることがミッションだったので、初めてこのフィードバックをもらった時は、全く何が不満なのか理解できませんでした。タイ語を使わず英語で話していたのは、運転手さんのためとさえ思っていました。英語ができる運転手は、マーケットの価値が高い、と。その後、タイ人社員の退職が数名続いたため、本社に出張した際にアセスメントを受け、トレーニングに参加してみることにしました。


以下は、その時に受けた異文化適応力の自己認識と適応性を診断するアセスメントです。アセスメントは5つの異文化適応段階に分類され、自己認識と実際の適応性のギャップを計ります。



各段階の定義は以下となります。

「拒絶」表面的な文化的違いしか理解せず、目に見えない文化的相違は避ける。

「二極化」自分と他者に二極化して考える。過度に自文化を尊重し他文化を批判したりする(その逆もあり)。

「極小化」自文化と他文化の共通点に目を向け、違いには触れないようにする。

「受容」自文化と他文化の違いも共通点も認識し、それを受け入れる。

「適応」その場に適した状態に文化的観点から自分の行動を変容できる。




上の2つのグラフがアセスメントの結果で、上が自己認識、下が適応性です。私は自分の結果を見て愕然としました(今までどんな試験でも下から3.5%に属したことはありません!)。このアセスメント自体の信ぴょう性を疑いました。これまで海外の高校と大学でも学び、世界中をバックパックで旅もしました。英語でもそれなりに仕事ができている認識です。しかし適応性としては相手の文化を「拒絶」しているレベルにいる。


海外駐在は当然、留学や旅行とは違い、常に利害関係が発生する中で、それぞれ異なる立場のメンバーと協力して成果を上げることが求められます。駐在員としての自分のミッション(価値観)と現地で日系企業を選んで働いている現地のメンバーにとって大事なこと(価値観)、その大きな隔たりをどう融合させていくのか。また、国ごとに異なる文化に対して、仕事で成果を出すために、自分をどう適応させていくのか。この2つは、駐在員一人ひとりが本来持っている能力を発揮し続ける上で鍵となる要素だと思います。


現職では、世界中の日系企業と仕事をさせて頂いておりますが、共通する悩みは、現地の社員が定着しないことです。「条件が良い方にすぐに転職してしまう。」「アメリカ人は平均して生涯13回転職する。」など皆さんおっしゃいますが、本当に条件だけでしょうか。そうだとしたら、その方達でさえ、条件が良かったからその会社に来たわけです。そんな理由で片付けてしまって良いのでしょうか。


自分のアセスメントの結果にショックを受けたままバンコクに戻り、まずは試しに空港に迎えに来た運転手さんにタイ語で話すようにしました。それから、通常のミーティングとは別に、現地のマネージャー5人と必ず1週間に30分、コーチングをしました。また、現地のメンバーが最も苦労していたセミナー集客を自分が率先してやるようにしました。すると、それを見ていた運転手さんが、運転手さん仲間を通して駐在員を集客してくれるようになり、一気にターゲット層への集客が増えていったのです。それを見てタイ人メンバーは自分達で集客方法を考え、どうしたら目標を達成できるか、考えて試すようになりました。そこから退職者が出ることもなくなりました。


これまでと変えたことは3つあります。①自己開示:駐在期間に実現したいことを感情を込めて話すようにしました。ひどい結果のアセスメントも共有しました。②価値観の接点を作る:コーチングを通して相手の価値観を知り、そこに対して具体的に行動で示す(タイ語で運転手さんに話す。相手の武勇伝に紐づけて話す、等)。③異文化適応:その国の文化に合わせて、コミュニケーション、フィードバックの仕方、反対意見の述べ方、信頼関係の築き方、リーダーシップの発揮の仕方、計画と実行の進め方、の6つの領域に分けて、スキルとマインドセットの両面から自分の行動計画を作り、その取り組みを開示しました。これら全ては駐在のミッションを遂行するためです。


自分は何しにこの国に来たのか、自分がここで働いた証として何を残していくのか、言葉にしてさらに形にすることは簡単ではないと思います。それでも、そこに向き合い続けることが、その現地法人の企業文化を作り、企業価値を高めていくのだと思います。





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