top of page
  • ayakot1

駐在で経験した一生モノの学び

更新日:2023年11月20日

三谷明子


1997年4月~2000年3月 中国 PwC上海

2000年4月~2004年9月 中国 パソナ上海

2004年10月~2010年3月 中国 マーサー

2010年4月~2020年3月 中国コーチエィ


私は今、日系企業の事業目標達成に向けて駐在員を支援するエグゼクティブコーチをしています。現地部下の育成や異文化マネジメントで成果を出すためにコーチングスキルを教えたり、一対一で駐在員の目標達成に向けてコーチをしています。


しかしながら私自身は、20年前に上海で初めて管理職になった時は、散々たるものでした。今でも思い出すと、あの時の自分の未熟さに恥ずかしい気持ちがこみ上げてきます。


当時、私は上海の人材紹介会社で働いていました。第三次日系企業進出ブームといわれ、製造業に加え、サービス業の中国進出も加速していました。多くの日系企業が右肩上がりに成長し、おかげで私もマネージャーに昇格しました。部下は、日本人2名と中国人2名。管理職になったことがとても嬉しく、会社に報いるためにもメンバーにもっと数字をあげてもらおうと意気込んでいました。


その頃の私は、マネジメントとは、会社の方針を部下に徹底させることだと思っていました。


部下のうち、一人だけ私より年上の方がいました。10歳以上年上で、日本の難関大学で経営学修士号を取り、職務経験も私より長く、おまけに日本語も日本人と同じように話す中国人女性です。戦力になる優秀なスタッフでしたが、私にとっては、大変扱いにくい部下でした。


会議で会社の方針を伝えると、彼女は、「なぜその方針なのか?」と質問してきます。上の人の言うことは正しく、それを徹底させるのが中間管理職の仕事だと思っていた私には、それに反論する社員などいくら優秀でもメンバーとしてチームワークを乱すし、評価はできないと思っていました。


ある日の朝会で総経理の話を全員立って聞いていた時、私の後ろで、総経理から最も遠い彼女の席から、パテーションの陰でキーボードを打つ音が聞こえてきました。私は、総経理の話を聞かず、自分の仕事をしている、そのことにカッとなり、後ろを振り返って「○○さん、止めてください。」と彼女に向かって周りに聞こえるような声で注意をしました。


彼女はすぐにキーボードを打つ手を止め、立ち上がって総経理の話を聞きました。


その日の午後、私は彼女から会議室に呼び出されました。そして彼女が朝会の時、出社当日に内定辞退をした方の緊急対応をしていたことを知りました。また、人前で叱られるということの捉え方が、日本人と中国人では大きく違うことも知りました。私が以前勤めていた日本の会社では、部長が課長を怒鳴っていましたし、それは期待の裏返しだとも聞かされていました。彼女にそのことを伝えましたが、「ここは中国ですよ。」と一蹴され、自分のやり方では相手にされないという悔しさを痛感しました。


そんなやりとりを見ていた当時の上司から、「三谷さん、大変そうだね。これ読んでみたら?」と渡されたのがコーチングの本。そこには私が考えていた上司の役割とは全く違うアプローチが書かれていました。


★指示命令型 コーチング型 マネジメントの違い の図★



海外で初めて管理職になる方も多いと思います。管理職としての壁、異文化マネジメントの壁、2つの壁を同時に乗り越え、かつ本社からの期待される成果を出していく。かなり厳しい局面だと思います。


その解決になるかもしれないコーチングとの出会いでしたが、当時はオンライン学習もなく、海外にいる私が日本語で学べる機会は限られていたため、本を一冊読んだだけで何か実践することはありませんでした。そして私はその会社を辞め、次の会社に移りました。


もしその時、コーチングを学び、自分のやり方を変え、優秀で経験豊富な彼女と良い関係が築けていたら、チームの業績はもっと上がっていたでしょう。そして、正直にいえば、自分よりも優秀な部下の存在に焦るのではなく、別の捉え方ができていれば、私自身の可能性も広がっていたかもしれません。今思えば、主体的な部下にさらに活躍の機会を作り、日本人では思いつかないような斬新なアイデア実現の支援をすることが、本来の駐在員の役割だったと感じます。


その後も私の中で、コーチングが何かを変えてくれるのではないかという想いがずっと残っていました。転職先のコンサルティング会社でも、コーチングを学んでいるという同僚に出会い、さらに興味は深まりました。


さらに、私がコーチになるに至ったのには、もう一つ理由があります。


人材紹介という仕事は、企業と人材の出会いを作り共に喜んでもらうという非常にやりがいのある仕事でした。しかし不思議なことに、本当に喜んで入社しても、2~3年経ってまた転職したいと戻ってくる人が多いのです。


理由は、会社に入った後の処遇への不満がほとんどでした。給料が上がらない、頑張ってもそれに見合った評価がされていないということが起こっていました。私は評価と給与に興味を持ちました。社員がモチベーション高く働ける報酬制度とはどういうものなのかを知りたいと思ったのです。


そこで、人材紹介会社を辞めた後の転職先として、人事制度設計を専門としているコンサルティング会社を選びました。ジョブ型の人事制度を在中国の日本企業に導入する仕事です。ジョブディスクリプションを定義し、それに基づいて社外競争力と社内公平性のある報酬制度を設計しました。しかし、いかに精緻な報酬制度をつくり、人材要件に合致した人材を採用しても、期末の業績では個人差が生まれます。なぜその違いが出てくるのか、私は疑問に思いました。そして、自分なりに研究してみると、どうやら個人差の理由は、その上司と部下の関係性にありそうだという結論に至ったのです。 そして、その上司と部下の関係を上手く行かせるためにコーチングが機能することも分かりました。


今、私が海外駐在員に特化したコーチをやっているのは、自分自身の苦い経験があったからだけではありません。人材紹介、人事制度設計、日系企業に対して様々な角度から人と組織を支援してきた結果、では一体何が社員のパフォーマンスを高めるのか、という問いに対して辿り着いたアプローチがコーチングだったのです。そして今、多くの駐在員にコーチングをして思うのは、誰にでも習得可能で、再現性の高いこの手法は、部下を育てるプロセスを通して、実は自分自身が最も成長していたことを気づかせてくれるものだということです。人を育てるとは、実は自分が育つことだったんだということに気づいた駐在員は、一生モノの学びを駐在を通して手に入れることができたと思います。

閲覧数:42回0件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page